A:雷の子 ヘシュワラ
ヘシュワラは、シャトナ族の言葉で「雷の子」を意味する。
その名のとおり雷気から生じる一種の魔法生物で、過去に何度も出現しているそうだ。特にユーペ円形農地が出来たばかりの頃は、こいつの雷に打たれて、命を落とす者も多かったとか…。当時はレギュレーターを着けてないトラルの民も多かったからね。ちなみに、ヘシュワラは倒したとしても、雷気に満ちたこの土地じゃ、しばらくすれば再発生しちまう。だから安全のため、定期的に駆除しないといけないんだよ。
~ギルドシップの手配書より
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ショートショートエオルゼア冒険譚
指定された予測出現地点に着いてからそろそろ一時間が経とうとしている。空は今日も分厚い雷雲に覆われて太陽の光は殆ど通らない。広く開けた荒野の高台から見渡せば荒野の中に落雷を受けるために設置されたアンテナが無数に立っているのが見える。雷は基本的に背の高いものや電気を通しやすい鉄のようなものに落ちやすいというが、さっきからひっきりなしに起きている落雷を見ていると、自分を守れるものは運しかないような気がしてくる。
不意に何者かが髪の毛に触れたような感触を覚えた。
「ねぇ」
相方の呼ぶ声がして相方の方を見た。
肩の上くらいで切りそろえた素直な相方のブロンドの髪が空に惹かれるようにふわふわと持ち上がっている。これはヘシュワラが出現するかこの場所に落雷するか、どちらかの合図だ。
「来るよっ。落雷にも注意して」
あたしは相方に声を掛け、周囲360度に意識を配った。どの方向に現れるかは神のみぞ知る、だ。
突然、後方の10mほど離れた場所でバチバチと激しい音が鳴り、青白い線香花火のように空中で火花が散る。そのバラバラに見えるいくつかの閃光が激しい音と共に一つに繋がり、形を整えていく。
エーテルの傾きが激しい場所には往々にしてこのような現象が起きる。今回の標的であるヘシュワラもその類の現象だ。因みにヘシュワラとは現地に住んでいた住むシャトナ族の言葉で「雷の子」を意味するらしいのだが、例えば、その地域のエーテルバランスが光や闇の火にエーテルが傾けばウィルオーウィプスが発生するし、風のエーテルに傾けばウインド・スプラウトが、水に傾けばウォーター・スプライトが発生する。どのようにしてそういう存在が発生するかという部分はまだ明確には解明されていないが、一説によれば各エーテルにはそれぞれ、その属性を司るエレメント(精霊)が存在しているらしいのだが、元々実体を伴わない意識体として存在するエレメントにエーテルが傾いたことにより過剰に力が注がれる。そのことにより光や火、雷を纏ったような姿で実体化するのだと一般的には言われている。
因みに、ここでいう精霊とは黒衣森やヤクテル樹海を統べるような強大な精霊ではなく、万物に宿るといわれる実体なき小さな精霊(エレメント)のことを指している。
そしてエーテルの過剰供給で肥大化したこの手のエレメントは天候が原因で発生している事が多いのだが、その存在がエーテルの作用によるものなので扱いは魔法生物に分類される。
そしてこいつらはそのエーテルの傾きが激しい程注がれる力が大きくなり、その分その力を増大させる。今目の前に現れてきたヘシュワラはヘリテージファウンド全体を覆い尽くすほどの雷のエーテルが作用して現れた。地域一つを丸々覆うほどの強大なエーテルが作用しているヘシュワラがどれほどの力を得ているかは想像するのも難しいのだが、昔からエーテルが濃くなる周期に合わせ定期的に出現してはその放電現象で人を殺め続けているというのだから危険なレベルである事は間違いない。
ヘシュワラは形や纏う稲光の速度を変えながらいくつかの雷玉に姿を集約していった。現れた雷玉はお互いを引き合うように1箇所に集まるとバチバチ音を立てながら手を取り合うように連なった。その実体化が安定し、姿がはっきりするにしたがってバチバチ言っていた電気特有の音が静まり、代わりに細かく大気を揺るがすようなブーンという振動音に変わった。
「!!」
見た目上特に何があったわけではないが、あたしは不穏な気配を感じて左から右に杖を大きく振り、相方もカバーできる大きさのマバリアを張った。
と、同時にあたしが貼った魔法の障壁を青白い雷撃が網のように包んだ。同時に全身にピリピリという痺れを感じた。マバリアはダメージを完全に防ぐためのものではない。あたし達は障壁が効果を失う前にバリヤから走り出ると、直後に薄いガラスの様にマバリヤは砕け散った。
体勢を整える間も与えないよう、ヘシュワラはすかさずそこに第二波の雷撃を放ってくる。
あたしは雷撃を十分引きつけると横っ面を叩くイメージで再びマバリアを張った。マバリアの表面を雷撃が軌道を変え滑るように走っていく。自慢じゃないがマバリアをこういう受け流すような使い方する黒魔道士はそうそういない。あたしが実戦の中でなんとなく思い付いた使い方だった。
第二波の雷撃を躱しきるとヘシュワラは大技でも放つつもりか、ゆっくりと十分な間合いを取った位置へと移動した。
「なにかくるよ…」
あたしは油断なく空気を窺いながら前傾姿勢のまま呟いた。相方も同じように前傾姿勢のまま声も上げずに頷いた。
ヘリテージファウンド